水泳のクロールでの推進力は約 8 割が手や腕による推進が占めていて、足の運動は身体を水平に保つために利用されています。クロールにおける泳者の手の動きは、ストレートプルと S 字プルに大別できます。ストレートプルが抗力を利用して推進しているのに対して、S 字プルは横方向の動きをともないストローク途中で手のひらの角度が変わるようにかく方法で、揚力の役割の重要性が指摘されています。このストローク中の遷移過程は、手の迎え角変化にともない手のまわりの循環の向きが変わる瞬間でもあり、この遷移過程で大きな推進力を生み出していることが推測されます。この水泳のプル動作における手のひらの角度は、よく知られている定常運動の翼の場合と大きく異なり、定常な流れに対する流体力学では解釈できません。つまり、手のひらの動きは明らかに非定常で、この非定常性を考慮に入れない限り推進のメカニズムは解明できないのです。
そこで、ダイナミックリフトと呼ばれる非定常な揚力が重要な役割を示していると考え、風洞実験**と回流水槽(図1)における泳者まわりの流れの解析を行いこの役割を明らかにしていきます。回流水槽では実際の泳者で測定を行い、スキルの異なる被験者(オリンピック選手とその他)でプル動作中に生成される渦に違いが生じることを明らかにしました。実際の泳者での非定常流れ場の取得に成功したのは世界初です。
*筑波大学体育科学系水泳研究室と共同で実施
**空力班「非定常流体力」参照
フィンスイミングは、フリーダイビングやスキューバダイビング、競技など水中スポーツとして多くの人に親しまれています。競技としてのフィンスイミングは第二のオリンピックとも呼ばれるWORLD GAMESの正式競技としても選ばれており、世界的に人気のスポーツです。フィンには大きく2種類あり、一つはそれぞれの足にフィンを付けるビーフィン、もう一つは両足を揃えてイルカの尾ひれのような大きな1枚のフィンを付けるモノフィンです。モノフィンを用いて泳ぐと、フィンなしの泳ぎよりも速く進み、イルカのような泳ぎが可能です。フィンなしの場合に比べて速く泳げる理由は、モノフィンを上下に動かすことによって、モノフィンの後方に渦輪が発生し、その渦輪によって推進力が得られるからです。
私たちは、このモノフィン推進における渦輪推進に注目して研究を行っています。図がフィン振動中に生成される非定常渦(輪)構造で、フィンの打ち上げと打ち下ろしの速度を変えると、渦輪のふるまいが変わり、推進力に違いが生じます。
2024.7.21 鈴木湧人君 受賞
鈴木湧人君(博士前期課程)が,ベストプレゼンテーション賞を受賞しました。